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ジェームズ

2005/8/28

「NHKってさ」
「NHK?」
「うん」
「あの、NHK教育とか、NHK総合とかの?」
「うん、そのNHK」
「うん」
「日本放送協会の略でしょ?」
「え?」
「日本放送協会」
「どういうこと?」
「えーと、に、ほん、ほ、うそう、き、ようかい」
「に、と、ほ、と、き、の頭文字を取ってNHKってこと?」
「そうそう、そういうこと」
「ほんとに? ナショナルなんとかかんとかの略じゃなくて?」
「多分」
「……なんかショック」
「でしょ?」
「何で日本語の頭文字なんだろね」
「うん、そう、その疑問が浮かぶよね」
「浮かぶ」
「でさ、郵便局」
「うん」
「もしね、民営化されたら」
「うん」
「なんて略されると思う?」
「え? 民営化しても郵便局じゃないの?」
「でもほら、国鉄がJRでしょ、日本たばこ産業がJTでしょ」
「あ、ほんとだ。民営化されるとアルファベットで略されるんだ」
「そうみたいなんだよね」
「……もし、日本語の頭文字を取って略するとすると」
「えーと、Y、K?」
「郵便局の正式名称って郵便局だっけ?」
「あれ? どうだっけ? ちょっと待ってね。今思い出すから」
「……」
「……」
「……最近は」
「ん?」
「インターネットで調べることを、思い出す、って言うの?」
「そう言った方がかっこいいと思わない? SF映画みたいでさ」
「テストでやったらカンニング扱いされると思うけどね」
「あ、あったあった。日本郵政公社だって」
「じゃあ、NYK。あれ、でも」
「ん?」
「民営化されても公社なの? 公って字が入ってるけど」
「……違うのかな」
「というかさ」
「うん」
「民営化ってどういうこと?」
「よくわかんない、けど、公社じゃない気がしてきた」
「どっちでもいいけどさ」
「うん」
「日本語の頭文字を取って略すのはかっこ悪いな」
「じゃあ英語に訳して頭文字を取ると……」
「ジャパン」
「うん。ジャパン、メール、サービス」
「サービス?」
「うん。公社なのかどうかわからないし、とりあえず、サービスで」
「メールって、手紙って意味じゃないの?」
「手紙はレターじゃない?」
「あ、そうか」
「えーと、JMS、かな」
「……ジェームズ」
「ジェームズ? あぁなるほど、そう読めるね」
「新しいマスコットの名前が、ジェームズになるかも」
「マスコット、ってもともと何かいたっけ?」
「ポストン」
「あー、なんかいた気がする。赤い郵便マークみたいな」
「うん、そのポストンに変わって」
「ジェームズ?」
「うん」
「でもさ、日本の郵便局のマスコットなのに外国人の名前ってまずくないかな」
「でもポストンって、日本人の名前じゃないよ」
「あー、そうか」
「でしょ?」
「でもなぁ、ジェームズっておじさんぽくない?」
「そうかな」
「イギリス紳士みたい」
「あー。『よく来たわね、ジェームズ』って感じ?」
「うん。『招いてくれてありがとう、バーバラ』って感じ」
「おじさんぽい名前はだめ?」
「うーん、何だか引っかかる。ポストンがいなくなるのも寂しいなぁ」
「そう? じゃ、えーと、えーとね」
「うん」
「ポストン」
「うん」
「の」
「ポストンの?」
「ポストンの、本名はジェームズ・ポストンでしたって」
「え? くっつけるの?」
「うん。実はジェームズ・ポストン」
「ポストンて苗字だったんだ」
「うん。ポストン一家」
「トラップ一家物語みたいだね」
「あれ? 何だっけ、それ。聞いたことはあるんだけど」
「ほら、えーと、サウンド・オブ・ミュージック」
「あー、あれか、なんか歌ったりするやつ」
「それそれ」
「じゃあ」
「うん」
「ジェームズも歌います。郵便局の歌」
「歌うんだ」
「郵便局に行くとかかってたりする」
「おさかな天国みたい」
「うん。似てる。パラダイス郵便局」
「ひかるげんじみたいだね」
「それはパラダイス銀河」
「思うんだけど」
「うん」
「ジェームズ・ポストンになっても」
「うん」
「ポストンって呼ばれると思う」
「……」
「……」
「……そうかも」

■ひとくちあとがき

まだ民営化が決定するかしないか、くらいのころに書いたものです。