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巨大なもの

2005/7/13

「あのさ」
「うん?」
「この間ね、業務用スーパーに行ったんだよ」
「業務用スーパー?」
「そう。業者向けのスーパーで、売ってるものが何もかも大きいの」
「何もかも?」
「そう、大きいふりかけとか、大きい冷凍枝豆とか」
「なるほど」
「でね、人はやっぱり大きいものに憧れるんだなぁって」
「やっぱり、って?」
「うん、昔もね、そういうことがあったんだよ。マリオ3で」
「マリオ3って、ファミコンの?」
「そうそう。オレンジ色のカセットのやつ」
「大きいものが出てきたの?」
「そう。ブロックも敵も全部大きいステージが」
「へぇ。マリオも大きいの?」
「いや、マリオは普通サイズ。だから何もかもが大きく見えて」
「ガリバーだね」
「うんガリバー。でもはてなから出てくるきのこは普通の大きさ」
「まぁ大きすぎてもマリオが食べられないもんね」
「うーん、普段は自分の身長くらいのきのこ食べてるから、がんばれば行けそうな気はする」
「飽きなければね。きのこって飽きない?」
「飽きる、かな?」
「まぁ自分の身長くらい食べたらなんだって飽きると思うけど」
「あー。飽きるね」
「んで?」
「あ、えーと、そうそう、で、その大きいステージはみんな大好きでした、って話」
「ガリバーみたいな気分になれるのが楽しいのかな」
「そうかも。そういうことって、ない?」
「あるよ。えとね」
「うん」
「のり」
「のり?」
「うん。工作用ののり。幼稚園の頃使ってた黄色い入れ物の」
「あー。あったあった」
「あれね、無くなると先生が、すっごいおっきい黄色いのりの入れ物をもってきてね」
「入れてくれたね」
「うん、そう。大人になったらあの大きいのり使うんだ、って思ってて」
「大人はすごいなーって」
「うん。でも使わなくて」
「うん」
「高校生の頃ね、父親とホームセンターに行ったの」
「ホームセンター?」
「あの、園芸用品とか大工道具とか売ってるとこ」
「あー、キャンプ用品とかも売ってる」
「そうそう。そこでね」
「うん」
「ボンドを見たの」
「ボンド?」
「そう、木工用の、黄色い入れ物に入ってる」
「あの、こう、横から見るとたまねぎみたいな形の」
「うん、それ。それの、大きいのが売ってあったの」
「大きいんだ」
「そう。見て、すごい声で大笑いした」
「どれぐらいだったの?」
「ん? えーと、多分店中に響き渡るくらい」
「店中? あぁ、そうじゃなくて、ボンドの大きさ」
「あ、えーとね、ほんとおっきかったよ。バケツくらい」
「どれくらいのバケツ?」
「んーと、えっとね」
「うん」
「花火でね」
「花火?」
「うん。あのセットで売ってるやつがあるでしょ?」
「あー。あるある」
「その、こう、平面サイズじゃなくて、筒状の」
「あれでしょ、プールに行くとき水着入れる入れ物みたいな」
「そうそう! あれに入ってる花火を全部火点けてね」
「うん」
「それの燃えカスが全部入るくらいのバケツ」
「あー、それは相当大きいね」
「うん。相当大きい。あれが欲しかった」
「やっぱり大きいものには憧れるんだ」
「うん。欲しかった。でも高くてその時は買えなくて」
「ボンドって小さくても結構高いもんね」
「うん高い。社会人になったら買おうって思ってたんだけど」
「うん」
「でも我慢できなくて、お年玉で買っちゃった」
「買ったの!?」
「うん」
「それはすごい……」
「最初は、父親が凧作るときとか使ってたんだけど」
「うん」
「段々使わなくなっていってさ」
「まぁねぇ、普段ボンド使うことってあんまり無いしね」
「で、時々使うくらいで」
「何に使ったの?」
「切手とか」
「……すごい強固な切手だ」
「うん。絶対はがれない自信があったよ」
「もしかして、最後まで使い切ったの?」
「ううん、全然使い切れなくて」
「うん」
「ん? えーと、それでおしまい」
「え? そのボンド、どうしたの? 捨てたの?」
「え? ううん、捨ててないよ」
「え? じゃ、今も実家にあるの?」
「ううん、そこにあるよ」
「……そこ?」
「うん、そこ、玄関の、空気入れとか入れるとこ」
「……」
「……」
「一生物だね」
「うん……。ほんと一生物だよ……」

■ひとくちあとがき

結構お気に入り。 大きなものは計画的に買いましょう、というお話。