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風化

2007/7/9

あなたの名前を忘れました。いいえ、存在を忘れた訳ではないのですただ、 どんなお名前だったのか、忘れてしまったのです。

ふたりでした会話も覚えています。ある時のあなたは随分とわたしを頼り、 そしてわたしはそれが嬉しかったのです。 あなたのような人が明るく積極的に、まるで昔からの友人のように接してくれて、 わたしはとても嬉しかった。

ああ。名前を思い出しました。だけど、わたしはあなたのことを何と呼んでいましたか? 名字でしょうか。それとも下の名前であったでしょうか。敬語でしたか?  あなたに何と呼ばれていたかも、わたしはもう思い出せないようです。

記憶力が薄れている訳ではありません。ただ、思い出すことが少なくなっただけです。 大切な思い出だと思っていました。でも、思い出すことが少ないなんて、 本当に大切にしているのかと疑ってしまいます。

結局のところ、わたしは生きることが億劫なのかもしれません。 表面的に騒ぐのも馬鹿らしいと思ってしまいますし、 ひとりでいるからといって何かに打ち込んでいる訳でもありません。 繰り返し。だけどそれでもいいと思ってしまっているのです。 お祭りに参加する気力が、わたしには無い。すれ違い続ける日々。 昔の友達、というものが、わたしにはいません。手を伸ばされれば握り返します。 ですが自ら差し伸べようとはしないのです。


だからわたしには友達が少ないのでしょう。
わたしと街ですれ違うようなことがあったとしても、気付かないふりをしてくださって構いません。