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深呼吸

2005/2/9

「そういうこと、あるわ」と彼女は言った。
 放っておいて欲しかったし、わたしがそうして欲しいことを彼女は知っていたと思う。 わたしが彼女の目を見て、見るだけ見つめて、一度もうなずかなかったのに、彼女は続けた。
「要らないものが多いの。あなたはそれを捨てた」一度でも要らないと思ったものは、もう捨てているに等しい。 「どうせお腹が減って、眠りたくなる」食べて眠れば、やがて目が覚める。 「何も考えなくていいし、何も欲しがる必要はない」本当にあなたに必要なものだけが、あなたに残る。

 そしてわたしはお腹が減り、食べたくもないのに食べ、眠くなり、眠りたくもないのに眠り、 目が覚めたときには、それは、既に終わっていた。
 何かがわたしの中から消え去った感覚。あれほど空虚だったわたしの中から、何かが消え、だからわたしは満たされていた。

 謝罪と感謝を。わたしは口を開き、けれどもどの言葉を選べばいいのか。

 何も言わないわたしに彼女は微笑み、それから、おはよう、と言った。
 いつものように、優しい声で。