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ヴェール

2003/12/25

 その人は他人と隔てられた世界に生きている、と感じている。
 同じように笑い合っていても、他の人たちは何かを共有しているようで、そして自分は同じものを持っていないと、そう感じている。自分の笑顔は上辺だけのものだ、と。
 それは水の中のように、あるいはヴェールを通したときのように、ぼんやりと、そして確実に世界を隔てている。
 自分と、他人とはこれ以上共有できない。他の人たちは感じていない孤独を、自分だけが感じている、とその人はそう思っている。他人と同じ世界に立つことは困難だろう、と。
 しかし、その人は気付かなくてはいけない。
 世界を共有しているように見える彼らもまた、同一世界にいるわけではない、ということを。異なる世界にいる、そのことだけが彼らと、そしてその人をつなぐ共通項。
 自分の世界と他人の世界が接触する、たとえヴェール越しだとしても、その事実ですら奇跡と呼ばれるべき事象である、ということ。

 私はその人に教えてあげることはできない。
 かつて私がそうであったように、他人の言葉では理解ができないものなのだから。
 理解できるのは唯一、自らそれに気付いた時、のみ。

 ヴェール越しだとしても、世界は十分に称賛に値すると、そう思う。