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傷跡

2003/11/10

 右手の甲に、いつの間にか傷ができていた。
 いつ傷つけたのか、全く思い当たらない。
 ごく小さく浅いその傷を見て、私は恐怖した。
 私が知らぬ間に傷つけてきたものは、右手だけか、と。
 私は今まで他を傷つけ、他に傷つけられ、自ら傷つけつつ歩いてきた。
 しかし、それは全て自覚していた。していたつもりだった。
 他を傷つければ謝罪し看病し、他に傷つけられれば言及し傷を労わり、自ら傷つければ静かに薬を塗ってきた。
 けれども、知らない傷は?
 自らの傷にさえ気づけない私は、他を傷つける爪に気づくことができるのだろうか。できてきたのだろうか。
 
 この傷が、ぴりぴりと、いっそいつまでも治らなければいいのに。